賃借人の残置物の取扱について
賃借人が動産類(残置物)を残したままいなくなってしまうケースは稀にありますが、その残置物の処分は、一体どうしたらよいのでしょうか。実際にあった判例を基に対策を考えてみたいと思います。
まず、前提として、日本では、「賃料を滞納しているため鍵を勝手に交換する」「家賃を支払えと張り紙をする」などの自力救済にあたる行為は、法的に禁止されていて、場合によっては、賃貸人側が賠償責任を負う事もあります。
今回ご紹介するケースは、借主が契約期間中に逮捕・勾留されたため、緊急連絡先である親族の同意を得て賃貸人が動産類を処分したというケースです。
一見すると、親族の承諾を得ているため問題ないように感じますが、釈放された賃借人は、処分された動産の価額と慰謝料を求める訴えを提起しました。
判決は、処分された動産の価額の支払に加えて、不法行為に基づき、精神的な損害を含む慰謝料の支払いを命じました。
賃借人の今後が不透明であることや、実母の承諾を得ていることから、残置物の処分は可能だと判断したものと推察されますが、実際には、実母にその権限はなく、賃借人の承諾があったとは認められないと判断されたのです。
対応策としては、賃借人の動産について処分権限を持っている代理人の承諾を得るか、賃貸借契約書の約定時に、動産の処分ができる条件などを定めて、事前に賃借人の合意を得ておくなどの対策が必要となります。
但し、仮に、契約書に処分に関する条文を入れてあったとしても、貸室の明渡(鍵の返還)を受けていなければ、処分はできないといった点には注意が必要と言えます。